病院や薬局で服薬指導を行う一番の目的は、患者さんに薬を正しく服用してもらうことです。
誤った方法で服薬してしまうと、本来の薬の効果を期待できないばかりか、健康を害してしまう恐れもあります。
表面的な薬の情報を得るだけなら、インターネット検索やAIでじゅうぶんという時代がきています。そんな新時代の服薬指導で大切なことは、患者さんひとりひとりに合った適切なコミュニケーションです。
服薬指導のコツ① 服薬指導開始前に、確認事項を把握しておく
「(鑑査終わったー!)はい、◯○さーん!」
と流れるように服薬指導に入るには、多少の修行が必要です。
薬歴を見なくとも併用薬を把握していたり、パソコンで薬歴を開くと同時に服薬指導を開始したりする薬剤師がいますが、それは上級者。
鑑査が完了したら、まず落ち着いて薬歴を開きます。これから服薬指導する患者さんの情報を確認します。
- アレルギー歴
- 併用薬
- 処方間隔
- 処方変更点
- その他、注意事項
今日聞くべきこと・伝えるべきことをあらかじめ頭の中で整理してから、服薬指導に臨みましょう。
服薬指導のコツ② 「先生から説明を受けてますか?」と聞く
新しい薬が追加された場合、薬の規格が変更になった場合。
「◯◯という薬が追加になりました」「△△という薬の量が増えました」といきなり言うよりも、よい方法があります。
「今日、新しい薬が追加になるって先生から聞いてますか?」
「△△という薬の量が増えるって病院で説明受けてますか?」と聞きます。
すると
「そうなんよー。採血の結果、コレステロールの数値が高くてね(なんちゃらかんちゃら)」
と、相手に話してもらうことができます。
服薬指導は、つい一方的な説明になりがちです。薬剤師がひたすら説明し、患者さんが「はい」「はい」と答える流れです。
そうではなく、なるべく患者さんにしゃべってもらえるような質問をするのがコツです。
薬学部時代に習ったと思いますが、「YES」「NO」では答えられるクローズドクエスチョンではなく、オープンクエスチョンを使いましょう!という話です。
このオープンクエスチョンにもコツがあります。
「なにか質問ございますか?」とか「お困りごとはありますか?」のようなざっくりとした問いかけだと
「いえ、特に」「別に」と返されることがほとんどです。
あまりにふんわりした広範囲に及ぶ質問だと、具体的な疑問や悩みが瞬時に浮かばないのです。
それに対して、「先生からなにか説明受けてますか?」「病院ではどのように聞いていますか?」という具体的な問いかけは有効です。数十分前の、病院での出来事だけを思い返せばいいので、患者さんは答えやすいです。
- 「はい(説明受けました)」
- 「説明されたけど、よくわからなかった」
- 「この薬本当に必要なん?」
など、様々な回答パターンがあります。
薬剤師側から一方的に薬の説明をするよりも、はるかに多くの情報が得られます。
患者さんの処方薬に対する理解度を把握するのはもちろん、患者さんが処方変更に対してどう思っているのかを知ることができます。これにはとても大きな意味があります。
「先生は、薬の量を増やした方がいいって言うけど、必要ないと思うんよ」
と言われたときは、患者さんが処方変更に対して不安・不満を感じていることがわかります。
その不安が少しでも和らぐよう、「増量の意義」「正しく飲まないとどんな弊害が出るか」など丁寧に説明し、きちんと納得してもらうのが「いい服薬指導」と言えます。
不安の程度によっては、
「もしかしたらこの患者さん、用法用量どおり飲まないかもしれないな」と察知することも大切です。次回服薬指導時に再度確認できるよう、薬歴に残しておくべき事項です。
そして、
「今日、新しい薬が追加になるって先生から聞いてますか?」
「△△という薬の量が増えるって病院で説明受けてますか?」
という質問には、もうひとつの意図があります。
それは「処方ミスがないか確認する」ということです。
実際にあった話ですが、
「今日、薬増えるって聞いてますか?」とたずねたら
「いや、減るんよ!血圧が低いんよ。今もふらふらよ!」と言われたことがあります。
疑義照会の結果、病院の処方入力ミスでした。こういうケースは稀ですが、疑義照会の大切さが分かる事例です。
残薬調整の際も、丁寧な確認が必要です。患者さんにとって必要な薬が、必要な日数だけ処方されているか。薬剤師も再度、患者さんとコミュニケーションをとって確認します。
患者さんが家に帰ってから気づいたのでは、患者さん・病院・薬局すべての人にとって二度手間になります。
「病院でどう聞いているか?」という質問はとても有効です。
服薬指導のコツ③ 用法用量以外の情報も丁寧に伝える
「1日3回毎食後 1回1錠」と言った基本的な飲み方以外にも、伝えるべきことはたくさんあります。
薬が処方されている理由・効能効果
実際にあった話ですが。本来毎日飲むべき薬に関して、
「最近痛みがないから、しばらく飲んでないよ」と言われたことがあります。
これは、「その薬が処方されている理由」が正しく理解されていない典型的な例です。
薬A, 薬B, 薬Cの薬情に「痛みを和らげる」と、同じように書いてあったとしても、処方理由や作用機序は同じとは限りません。
- 痛みが出た時だけ飲む薬なのか
- その薬を飲み続けることで痛みが出にくくなる薬なのか(予防薬)
- 根本的な治療に繋がる薬なのか
を、正しく伝えることが大切です。
「薬をなるべく飲みたくない」という患者さんはたくさんいます。
「痛みが出た時だけ飲む薬」は、痛みを我慢できるなら、飲まなくても問題ありません。
しかし、予防薬や治療薬は、基本的に用法用量どおり服用されることを想定しています。
医師もそのつもりで処方しています。患者さんの症状が改善しないとなると
- じゃあ薬を変えてみようか
- 薬を増やしてみようか
と考える可能性があります。本当は、用法用量どおり飲めていないことが原因なのに…。
こういう事態は、丁寧な服薬指導で防ぐことができます。
「なぜ今この薬を飲まないといけないのか」という部分を理解してもらうことは、コンプライアンス向上につながります。
薬の効果が出るまでにかかる期間
効果を実感できるまでに数日、数週間かかる薬が処方されたときの話です。
特にしびれやめまいなど、自覚症状に対する薬に関しては、患者さん自身が「効いた」「効かない」の判断をしやすいため、丁寧な服薬指導が大切です。
効果発現までに時間がかかることを伝えていないと、
「この薬ぜんぜん効かないや!」と自己判断で中止されてしまう可能性が大いにあります。
「効果を実感できるまでに数日/数週間かかります。途中で飲むのをやめないで、しばらく様子を見てみてください。」と伝えることが、コンプライアンス向上の鍵です。
重篤な副作用の初期症状
重篤な副作用を未然に防ぐために、患者さん自身が発見できる初期症状を伝えます。
医療従事者でなくてもわかりやすい表現で、印象に残るよう伝えます。
製薬会社が作成した指導箋を一緒に渡すのも効果的です。
目の前の患者さんに関係ありそうな副作用
服薬指導で大切なことは、目の前の患者さんにとって必要な話をすることです。
例えば、眠気の出やすい薬が処方されたとして。下に挙げた2例の方に、まったく同じ説明をしていては「良い服薬指導」とは言えません。
- 90歳
- もう仕事をしていない
- 移動は、家族が運転する車のみ
- 40歳
- 高所で作業する仕事をしている
- 車の運転は毎日
上の90歳の方であれば、「この薬を飲むと、眠気が出ることがあります」とサラッと伝えるだけで問題ないでしょう。本人や家族が「最近前より眠そうなのは、この薬の影響なんだ」と把握してもえたらじゅうぶん、ということです。
下の40歳の方であれば、眠気の副作用を、より強調する必要があります。仕事や運転の時間帯など、より詳しい生活リズムを聞き取って、薬を飲むタイミングを工夫する必要があるかもしれません。「眠気が強く出て、生活に支障が出るようであれば、次回受診時に医師に相談してみてください」と伝えるのもいいでしょう。
副作用に関して、「なにか変わったこと・困ったことがあれば、いつでも薬局に電話してください」のひとことを付け加えておくことは有効です。
薬情や薬袋には、薬局の名称や連絡先が記載されていますが、遠慮して電話できない患者さんもいます。「気軽に相談していいんだ」と、安心してもらいましょう。
服薬指導のコツ④ 患者さんの体調・理解度・性格・家庭環境などに応じて説明を変える
例えば、視力の弱い患者さんだと、薬袋の字が小さくて見えないかもしれません。その場合は、「薬袋に太マジックで、用法用量を大きく書く」などの工夫が必要です。
理解度の高い患者さんに、何度も同じ説明をすると「しつこい。早くしてほしいな。」と思われかねません。一度そう思われてしまうと、他の大切な話も伝わりにくくなってしまいます。逆に、以前処方されたことのある薬でも、もう一度改めて説明してほしいと希望する患者さんもいます。
大きな声で話すと「高齢者扱いして!」「プライバシー守ってよ!」という人もいれば、「とても助かる」という人もいます。
服薬の手伝いをしてくれる家族と同居している方もいれば、ひとり暮らしの方もいます。
本当に人それぞれなので、とにかく目の前の患者さんの状況と気持ちを汲むことが最優先です。
それが「服薬指導の極意」だと思います。
マニュアル通りじゃなくても、一般的じゃなくても、目の前のたったひとりの患者さんに「ありがとう」「助かった」「薬のことがよくわかった」と思ってもらえたら、服薬指導としてはハナマルなのです。
服薬指導のコツ⑤ 強調したいことが患者さんの印象に残る工夫をする
服薬指導をしていると、途中で話が逸れることがあります。
患者さん自身、その場では理解したつもりでも、帰宅後いざ薬を飲もうとすると
「あれ?何に気をつけるんだっけ?薬局でなんか言ってたな…」となることがあります。
「これだけは絶対覚えておいてほしい」という内容は、患者さんが忘れないように、ひと工夫します。
- 優先度が低い説明は控えて、重要度の高い話に徹する
- 薬袋や薬情にコメントを書き足す
- 服薬指導の最後にもう一度繰り返す
- 薬歴に「次回、正しく服用できたか確認。必要があれば再度説明。」など、記録を残す
など、方法はいろいろあります。
服薬指導のコツ⑥ 薬の説明以外の話題で良い関係性を築く
服薬指導の軸は、処方薬の説明ですが、患者さんの立場に立つと、それ以外にも気になることはたくさんあるはずです。
- なぜ先月より支払額が高くなったのか
- 自己判断で飲み始めたドラッグストアの薬が、自分に合っているのか知りたい
- 昨日テレビで「血圧にいい」と紹介されていた食品が本当にいいのか、薬剤師の意見を聞いてみたい
このような疑問には、分かる範囲で積極的に回答するのがいいと思います。
患者さんが窓口でされる質問というのは、たとえ処方薬に直接関係なくとも、「薬剤師に聞いてみたいな」と思って、用意してきてくれたものです。
処方箋に書かれた情報だけでなく、患者さんが不安に思っていること・知りたいと思っていることにも目を向けて、積極的にコミュニケーションをとりましょう。
門前病院に関する悩みや疑問がある患者さんは多くいます。
ただ、それを病院に直接訴えることには抵抗のある方が多く、心にモヤモヤを抱えたまま薬局にきます。
実際にあった話をひとつお伝えします。
ある患者さんが、「病院での採血の頻度が高すぎる」と思っており、それを薬局で訴えられた日がありました。
- 診察のたびに針を刺されるのが苦痛という身体的負担
- 頻繁に採血をしてなにが変わるのかという疑問
- 採血のために診察料が高くなっているのではという不安
などなど。
「でも病院で先生に話したら、見放されるのではないか」という不安も打ち明けてくれました。
このケースでは、患者さんとしっかり話をしたあと、わたしから病院に状況をお伝えしました。もちろん患者さんの許可は得ています。
それを受けて、次の診察時に、医師が「なぜ毎回採血をする必要があるのか」ということを、患者さんに丁寧に説明してくれました。患者さんは「そういう理由があるなら」と納得されました。
これ以降、病院と薬局への信頼度があがり、よくお話してくれるようになりました。採血の結果も、進んで見せてくれるようになり、服薬指導や薬歴管理もスムーズになりました。
処方薬の説明だけが服薬指導ではありません。
「自分のために行動してもらった」「自分の不安に寄り添ってもらった」という事例の積み重ねは、信頼を得ますよね。
患者さんの服薬コンプライアンスが向上し症状が改善すること、適切な対応をして「ありがとう」と言ってもらえることなどを励みにがんばっております!