どんな職種でも、その業界の専門用語・略語というのが存在します。
薬剤師として病院や薬局で働き始めると、最初はその聞きなれない言葉に戸惑うと思います。
この記事では、調剤室で飛び交う「薬剤師として働くなら必ず耳にする用語」を紹介します。
定期/臨時
- 定期:「定期処方」「定期薬」のこと。決まったタイミングで服用する。
- 臨時:「臨時処方」「臨時薬」のこと。症状が現れたときのみ服用する。
定期薬:「毎日朝食後に1錠飲む薬」のように、決まったタイミングで継続的に服用する薬
自覚症状がなくても服用を継続することで、病気の進行を抑制したり、体調を整えたりする
臨時薬:「疼痛時」「発作時」のように、症状が現れたときのみ服用する薬
〈会話例〉
=処方箋を確認後=
薬剤師A「○○さん、今日頓服の便秘薬しか出てないけど、そろそろ定期も切れる頃じゃない?」
薬剤師B「確認しますね!」
患者さんに処方されている薬のうち、どれが定期薬で、どれが臨時薬かを把握しておくことはとても大切です。
前回の処方内容と比較して、
- 臨時薬が削除されている場合:「全部飲み切っていないかも」「まだじゅうぶんな手持ちがあるのかも」
- 定期薬が削除されている場合:「コンプライアンス不良?」「病院の処方忘れ?」
というように、確認事項に違いが生じます。
定期/臨時薬(処方)を正しく把握しておくことで、患者さんの服薬状況を推測できたり、処方漏れを防げたりします。
Do(ディトー/ドゥー)処方
Do(ディトー/ドゥー)処方:前回と同じ内容の処方を指す。
Do処方の「Do」は、実は英語ではありません。
「ditto」というラテン語が由来で、「前に同じ」という意味です。
前回と処方内容が変わっていないときに「Do処方」「前回Do」という表現が使われます。
語源を考えれば「ディトー」と読みそうですが、実際の現場では「ドゥー」と発音されます。
〈会話例〉
=疑義照会=
薬剤師「今日○○さんにアムロシピン処方されてないですが、中止ですか?」
医師「前回Doで処方したはずだけど…」
院内/院外
- 院内:「院内処方」の略。診察を受けた病院/クリニック内で薬を受け取る。
- 院外:「院外処方」の略。診察を受けた病院/クリニック内で処方箋をもらい、薬局で薬を受け取る。
院内/院外処方については、別記事に詳しくまとめました。
〈会話例〉
=投薬時=
薬剤師「え?その薬も飲んでるんですか?」(薬歴に記録ないけど…)
患者さん「あの病院は院内だからね。ここに処方箋を持ってくることはなかったけど、もう長いこと飲んでるよ。」
ENT(エント)
ENT:「退院」のこと。
「退院」を表す言葉として、日常的によく使われます。
退院時処方のことは、「ENT処方」と呼びます。
ENT処方は、入院中の処方とは異なり、注意すべき事項があります。
ENT処方注意すべき事項① 処方内容
入院中の定期薬がそのまま退院処方になる方もたくさんいますが、そうでない患者さんもいます。
例1:
「家以外だと眠りが浅くなる」などの理由で、入院中だけ眠剤が処方される
例2:
入院中は注射や点滴で投与していた薬剤を、退院後は内服薬に切り替える
このようなケースもあるので、退院処方の内容には注意が必要です。入院中の処方とまったく同じとは限りません。
ENT処方注意すべき事項② 処方日数
退院処方では、日数の確認も重要です。
次回受診予定日まで、手持ちの薬が切れないように処方する必要があります。
ENT処方注意すべき事項③ 一包化などの調剤方法
退院後、薬の管理をするのは、患者さん本人です。患者さんの家族が管理することもありますが、医療従事者とは限りません。
つまり、「誰がみてもわかりやすいように調剤する」ことが大切です。
入院中であれば、病院の内規に従って分包します。薬剤師や病棟の看護師さんが管理しやすいようにルールが決まっています。
ところが、退院処方となると
「退院後の分包紙には氏名を印字しないで」という希望を受けることがあります。
このように、入院中の処方と退院処方とでは、分包紙の印字内容が変わることも多々あります。
〈会話例〉
=病院=
看護師さん「さっき5階の◯◯さんにENT処方出たので、明日までに準備お願いします」
薬剤師「わかりました!」
GE
「ジェネリック医薬品」「後発医薬品」のこと。先発医薬品の特許が切れた後に製造される薬。先発医薬品と同じ有効成分、効果をもつことが認められた薬。
後発医薬品のことを「ゾロ」と呼ぶ人もいますが、「ジェネリック」という用語のほうが一般的です。
現場では短縮して「ジェネ」と呼ぶ人もいます。
薬歴に「GE」と記載してあったら、ジェネリックのことです。
〈使用例〉
=薬歴 特記事項=
「ロキソニンGE変更不可」
SE
SE:「Side Effect」の略。副作用のこと。
薬歴に「SE」と記載してあったら、副作用のことです。
〈使用例〉
=薬歴 特記事項=
「ロキソニンSE歴あり(2022.10)」
ピッキング
ピッキング:処方箋に基づいて、必要な薬を集めること。「調剤」の一部。
薬局で行われる「調剤」には
- 処方箋に誤りがないかチェックする処方鑑査
- 処方箋に基づいて、必要な薬を集めるピッキング
- 集めた薬や処方内容に問題がないか、総合的に判断する最終鑑査
- 投薬
などの工程が含まれます。つまり、ピッキングは「調剤」の一部です。
「ピック」と略す人もいます。
ピッキングをする人のことは、ピッカーと呼びます。
〈会話例〉
=処方箋を受け取る=
薬剤師A「わたし鑑査するから、ピックしてもらえる?」
薬剤師B「はい!」
脱カプ
脱カプ:「脱カプセル」の略。カプセルを外して、中の薬剤を取り出すこと。
「カプセル剤が飲み込めない」「大きなカプセル剤は、喉に詰まりそうで怖い」などの理由から、脱カプセルを希望される患者さんがいます。処方箋に医師の指示として、記載されていることもあります。
注意点としては、脱カプセルに適さない薬があるということです。
患者さんが強く希望したとしても、処方箋に記載があったとしても、最初にやるべきことは
「本当に脱カプセルしても問題ない薬かどうか」の確認です。
適さない薬を脱カプセルすると、薬の本来の効果が発揮されなかったり、副作用が出やすくなったりすることもあります。
必要に応じて疑義照会します。
他剤形(OD錠・散薬など)への変更を提案したり、嚥下しやすい類似薬への変更を提案することもあります。
手まき
手まき:一包化を行うときに、手作業で行う工程のこと。
飲み間違いや飲み忘れの防止のため、用法ごとに薬をパッキングすることを一包化といいます。
一包化作業には、自動化されている部分もありますが、手作業が必要なこともあります。
- 処方頻度の高い薬
- 吸湿性の少ない薬
など、あらかじめ分包機のカセットに補充してあるものは、自動で袋に入ります。
しかし
- 処方頻度の低い薬
- 吸湿性の高い薬
- 0.5錠処方で、まずは半分に割ってから追加する必要のある薬
などは、あらかじめセットしておくことができません。
これらの場合は、手作業でセットする必要があります。
薬を「手で撒く」から、手撒き(てまき)と呼びます。
〈会話例〉
=分包機が止まってる=
薬剤師A「一包化まだ準備できない?」
薬剤師B「手まきの薬がまだセットできてません!」
疑義
疑義:「疑義照会」の略
疑義照会とは、処方箋調剤の際、疑問点や不明点を処方医に問い合わせることを言います。
調剤室では「疑義」と略して使う人が多いです。
疑義照会を理由に投薬が遅れる場合は、患者さんにひとこと伝えてあげると親切です。患者さんは自分の処方箋に不備や疑問点があるとは思っていないので、「なぜあとから来た人たちが、どんどん先に呼ばれるの?」と思ってしまいます。
患者さんに「そんなのいちいち確認しなくていいから!」と言われることも「あるある」ですが、疑問点や不明点を残したまま「きっとこうだろう」「ま、いっか!」と調剤を進めることはNGです。
〈会話例〉
=最終鑑査時=
薬剤師A「この処方箋、ブロチゾラム35日で来てるけど?」
薬剤師B「あ!疑義済です。(伝え忘れてて)すみません。」
電カル
電カル:「電子カルテ」の略。患者さんの情報管理を電子化したもの。
いまだに紙カルテを使用している病院・薬局もありますが、最近では電子カルテがどんどん普及しています。
電子カルテのメリット
- 患者さん数・情報数が増えても、必要な管理スペースが変わらない
- (タイピングスピードにもよるが)入力が速い
- 「文字が読みにくい」という問題が発生しない
- 紙カルテと比べて、必要な情報を素早く見つけられる
- 複数人での情報共有が容易
- 施設内の複数の場所からアクセス可能
- 日々バックアップを取っておけば、火事や洪水・強盗などが起こっても、元データの復旧可能
電子カルテのデメリット
- 紙カルテに比べて導入コストが高い
- セキュリティ対策が必要
- システムの不具合、パソコンの不具合の影響を受ける
- 停電の影響を受ける
- パソコンの使用に抵抗のある職員にとってはハードルが高い
〈会話例〉
=調剤室=
薬剤師A「そろそろウチも電カル導入したほうがいいと思う?」
薬剤師B「難しいところですね。紙の良さもありますからね。」
レセ
レセ:「レセプト」の略。医療機関が患者さんに施した保健医療の内訳を記した明細書。
医療機関では、医療費の総額の0〜3割を、患者さんが負担します。(一部負担金)
残りの7〜10割分を保険者に請求することをレセプト業務と呼びます。「レセプト業務」のことを「レセ」と略すこともあります。
病院や薬局では、毎月レセプト業務を行います。最近では電子化が進んでいます。
レセプト業務が正しく行われないと、医療費のほとんどが収入として入ってこないことになるので、病院や薬局の経営に関わります。
〈会話例〉
=調剤室=
薬剤師A「残業?」
薬剤師B「今日、レセです。」
手帳
手帳:「お薬手帳」のこと。
「お薬手帳」と略さず言う人もいますが、現場では「手帳」と言う人が多いです。「手帳」だけでも何を指しているか明らかなので。
患者さんと会話するときも「お手帳」で通じます。
お薬手帳は、
- 薬歴
- 併用薬
- 服薬コンプライアンス
などを確認するための重要なツールです。病院や調剤薬局に行く時にはぜひ持参してもらえるよう、お声がけをしましょう。
〈会話例〉
=処方箋受付時=
調剤事務さん「〇〇さん、今日お手帳お持ちですか?」
患者さん「あ、今日忘れたわ!」
薬情
薬情:「薬剤情報提供書」の略。薬に関する情報が記載された紙。
投薬時、お薬と一緒に患者さんにお渡します。
薬剤情報提供書を見ると、その日に受け取った薬に関する情報がわかります。
記載される内容は、薬の名称・写真・効能効果・用法用量・副作用などです。記載事項やレイアウトは、医療機関によって多少異なります。
医療従事者でなくても理解できるような表現で書かれています。
〈会話例〉
=調剤室=
薬剤師A「あの薬、最近色変わったよね?」
薬剤師B「薬情の写真差し替えなきゃね」
新患(しんかん)
新患:「その薬局に来るのが初めて」という患者さんのこと。
初めての患者さんには、確認すべき事項がいろいろあります。
- 連絡先
- 保険
- 年齢
- 体重(小児の場合)
- アレルギー歴
- 副作用歴
- 病歴
- 併用薬
などなど。
また「ご高齢でひとり暮らし」「カプセルが飲みにくい」「深夜シフトで働いている」など、調剤や服薬に関わる事項も要確認です。
チェック項目がたくさんあるので、新患さんには初回質問票(問診票)への記入をお願いできるとスムーズです。
〈会話例〉
=待合室を見ながら=
薬剤師A「あの一番右の方(見慣れない)ってどなた?結構待ってない?」
薬剤師B「新患さんですね。いま一包化してます。」
管薬
管薬:「管理薬剤師」の略。
管理薬剤師の主な仕事は、「医薬品の管理」と「従業員の監督」です。
法律で定められたポジションです。薬局の責任者として、各店舗にひとりずつ配置されます。
管理薬剤師になるための、試験や資格はありません。
管理薬剤師になると、伴う責任も増えますが、経験値が増えます。年収も上がる場合がほとんどです。
管理薬剤師を経験しておくと、その後の転職でも有利に働きます。
なお、管理薬剤師になると、原則ダブルワークや副業はできません。
〈会話例〉
=調剤室=
メーカーさん「採用薬のことでご相談が…」
薬剤師「管薬に代わりますね」
門前
門前:「門前薬局」の略。病院やクリニックのすぐ近くにある薬局のこと。
門前薬局では、受け付ける処方箋の大半が、近隣の病院からです。
患者さんにとってのメリットは
- 近い
- 処方薬の在庫が揃っていることが多い
薬局にとってのメリットは
- (処方される薬がある程度決まっているので)在庫管理がしやすい
- (日頃からコミュニケーションをとっておくことで)疑義照会・相談などがしやすい
門前薬局に対して、不特定多数の医療機関からの処方箋を受け付ける薬局のことを「面薬局」「面受け薬局」「面分業(薬局)」と言います。
〈会話例〉
=面薬局にて処方薬の在庫がない=
薬剤師A「この薬、最短明日の午後納品らしいです。でも患者さんは本日中を希望されています。」
薬剤師B「門前持ってるかな?電話して聞いてみようか。」
分譲
分譲:必要な薬を他薬局から購入すること。
採用のない薬が処方されたり、在庫がいくらか足りなかったりする際、他薬局から薬を購入することがあります。これが「分譲」です。
卸さんからの納品に時間がかかるときや、そのときだけ必要な薬が処方されたときなどは、「分譲」というシステムに助けられます。
なお、薬局が病院から薬を買うことはできません。逆に、病院が薬局から薬を買うことはできます。
〈会話例〉
=面薬局にて処方薬の在庫がない=
薬剤師A「この薬、明日午後の納品が最短らしいです。でも患者さんは本日中の受け取りを希望されています。」
薬剤師B「門前が持ってたら分譲してもらおうか?」
いかがでしたか?すべて聞いたことがありましたか?
薬剤師1年目の方や、薬学部生の方の参考になれば嬉しいです。